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05 Kaamos

フィンランド語で「極夜」を意味するカーモス。2曲目に収録されているSkábma(スカーマ)は意味は同じだけどこちらはサーミ語。

極夜(きょくや、英語: polar night)とは、日中でも薄明か、太陽が沈んだ状態が続く現象のことをいい、厳密には太陽の光が当たる限界緯度である66.6度を超える南極圏や北極圏で起こる現象のことをいう。対義語は白夜。[出典:Wikipedia]

 

前作の「星のピアノ」もそうだったけど今作も「夜」が関係した曲が多い。なぜだろう。初期の頃はFullerene、Komorebiとか太陽の出ている時間の曲が多かったのだけど。内省的な方向に向かっているのかもしれません。

 

焚火の音から始まるイントロ。この焚火の音はずっと前、真冬に訪れた白川郷で実際の焚火(日本昔話に出てくるような感じ)をレコーダーで録音した音を使っています。焚火の音を聞くだけで温度を感じるし、暖かく感じます。

 

核となるリフを奏でるピアノはuna corda。Skábmaでも使っています。この曲ではそこまで深くリバーブをかけてなくて家で弾いてる雰囲気を出しました。

 

凍えるような寒さの中、漂うように登場するバイオリンはTINÖRKSに参加してもらっているharakanaさんのトラック。リバーブ有り無しの2つのトラックを送ってもらってバランスを調整しています。元々のバイオリンのトラックがダイナミックレンジが広く、表現力が存分に感じられるものなので、その良さを壊さないようにミックスでは少し力強さを加えるのと他トラックになじませるだけにしました。(harakanaさん、素敵なトラックありがとう!!)

 

「Kaamos」(カーモス)のアートワークで使用しているのは大台ケ原の正木峠にある大きな枯れ木を見上げたもの。これをINFINITE COLORのプラグインをフォトショップに入れて質感を変えました。アルバム「MORINO HAJIMARI」で使用している画像の編集はすべてこのプラグインで調整しています。画像は枯れ木がまるで稲妻を発しているような雰囲気で、曲名の極夜とは関係ないですが、写真の持つダークな雰囲気が個人的にとてもしっくりきています。

 

[lyric]

Falling in the polar night
to hear the melted dawn
The place a ray returns
I cognize still cause
Embryos of tonal form
Abstract me

Falling in the polar night
to reach out the place
Recurrence

If there is no ray,
create it with resonance
Even in darkness without time
It casts a shadow and reveals the night tail

Like frightened animals
evanescence exist

Voices covered in lies
Efface everything
and touch the colourless dawn
If there is no ray…

[日本語訳]


極夜に吸い込まれる
溶けた夜明けに耳をすませて
かすかな光が宿る場所
静謐(せいひつ)な理由を知る
色彩の形

はじまりは僕をにじませる

極夜に吸い込まれる
その場所へたどりつくための循環

もしも光がないのなら
共鳴して作ればいい
時のない暗闇の中でさえ
影を投影し 夜の終わりを浮き彫りにする

おびえた動物のように
はかなさは存在する

嘘にまみれた声
すべてを消してしまおう
そして色をなくした夜明けに触れて

もしも光がないのなら…

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

 

 

珍しくマイナーな曲調で詩の内容はダークな雰囲気です。暗闇の中でさまよい、おびえながらも、自らかすかな光を灯して夜明けを目指そうということがテーマとしてありました。

 

淡々としたピアノの演奏は夜を表していて、そこでぽつぽつ灯る明かりを雫が演奏するlap harpの音色やメロディーに込めました。そこにバイオリンの弦の響きが加わることで、暗闇の中で揺れ動く心の動きを表せたらというアレンジを意図しています。

 

後半部直前にある台風の前の静けさのようなセクションを挟んで、重量のあるドラムが登場するメインセクションへ展開。ときおりフィルインで入る「ブーン」というSEは極夜を支配する暗闇のカーテン、つまりダークサイドを表していて、これをぬぐいさるようにヴォーカルが進行、けれどバイオリンの音の響きで感情は揺さぶられていると。

 

後半部に関していうと、影響を受けたのがNetflixで鑑賞したドイツのドラマ「DARK」(ダーク)。世界観が素晴らしく、登場人物が多いのと、ストーリが難解なんですが、とても面白くてはまりました。(脚本家の人、天才やと思う)時間のループがテーマでひとことで説明できないほどミステリアスなストーリーです。


ドイツのミュージシャンApparat(アパラット)の 「Goodbye」 feat. Soap&Skinの主題歌もかなり良くて、その世界観にとても影響を受けました。3連符の弦と重さと暗さを感じるピアノの組み合わせにアートを感じるほど素晴らしい音作りだなあと感動しました。


暗闇というのは何も明るさの度合いではなくて、未来がないというか可能性を感じられない時や無力を感じる時、感情を出せない時などにも感じる感覚のような気もします。

 

個人的にやっぱり今の閉そく感が蔓延している世の中は生きづらさを感じる。閉そく感は少なくとも20年前から始まっていると思うのですが、何でも自己責任で片付けられ、そしてスモールコミュニティも形成されぬまま社会が変貌していくのは、何か違和感があるし、その方向は違うと思っています。自分さえよかったらいい、強者がすべてという排他的グローバリズムの先には絶望しか感じない。

 

そうではなくて、それぞれがまずは自分の心と体を大切にしながら、無理をせず、やりたいことにチャレンジができて、そして他人に協力してスモールコミュニティの中で、自分のできることをやっていく。しんどい時は休めるし、元気な時は頑張ればいいし、生きていくために必要なものをコミュニティの中でお互いにシェアできるような環境。力のある人は力の弱い人を助けて全体として未来につなげていく。こうすべきとか、こうあるべきという日本独特の空気感に支配されず、強要されず、強要せず。

 

まずは自分を肯定し、他人の価値観を尊重して、他人に踏み込まず、けれど良い距離感で生きていく。明日におびえて暮らすのではなくて、生きていて良かったと思えるような人生を送れることが決して特別なことではなく、それが日常である世の中がいいなあと思っています。

 

ある意味逆説的だけど、ダークな曲からあえて理想とする希望を導き出すような曲がこのKaamosかなと書いていて思いました。

01 MORINO HAJIMARI

02 Skábma
03 Glänta
04 Hiraeth
06 Norrsken

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